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「美しい国へ」(安倍晋三著)への違和感 その5(終わり)

2006/09/22
歴史と社会

「国家指導者が正しい歴史認識をもつことが大事なのではないだろうか」

仮にクラシカルなリベラリズムが現在存在するとしたら
・・・それはアダム・スミスの昔からそうなのですが、
「経済的」自由主義に100%依存するものでなければいけません。

それ以外のクラシカルなリベラリズムのルーツはないのです。
まず経済的な自立があって意見や思想の自立がある。これがブルジョアの考え方です。
私は独立した個人自営業者であり、
その意味では日本のブルジョアの最下層に位置していると思います。
まさに経済的に自立しているかどうか、が私の意見の自由の分かれ目です。
しかし安倍さんの意見主張にこの、「経済的自立がもっとも大事である」「経済人としてまずある」
ということへの個人的理解やシンパシーを感じたことは一度もありません。

というのも無理もありません。
安倍さんは数世代の世襲を経た政治家ですが、
そもそも政治家自体が税金により養われる存在です。
その世襲を悪びれずに背負っているという意味で、彼はブルジョアではなく、
かつてイギリスではブルジョア(ホイッグ党)=経済的自由主義と対立したところの、
貴族的・地主的な保守党主義者(トーリー党)ではないかと思います。
自由主義ではなく、ある主の世襲主義や封建主義に基づく保守主義が、
本来の彼の持ち味ではないか、と思います。

(私も封建主義は相当好きです。私はブランド論をやっているので、
ブランド国家や企業がすべて封建主義にある種のルーツを持つことをよく知っています。)

しかし政治であるとか社会思想ということになると、
そこまで歴史を単純化してそれをもって「開かれた保守主義」と名乗ることが出来るのかどうか・・・
私は大いに疑問です。
これまで書いてきたように、
私たちは18世紀までの遺産同様、19世紀と20世紀の遺産をも背負っています。
古い遺産と新しい遺産、どちらが重要かの価値判断はできませんが、
どちらが今日の社会に大きな影響を及ぼしているかといえば、
やはり近い歴史のほうではないでしょうか。
その重要な資産は19世紀後半から20世紀前半にかけて
「ニュー・リベラリズム」によりもたらされました。
「クラシカル・リベラル」は産業革命社会における解決力がないために、郷愁こそもよおすものの、
社会思想的にはニュー・リベラリズムへのけん制以外の役割がなくなってしまったのです。

「ニュー・リベラリズム」の歴史的有効性は、
イギリスやアメリカ、そして先進国の多くを見ればあきらかです。
この行き過ぎ(これがまたよく行き過ぎる)を批判することは私も大いにやりますが、
その遺産をも背負って今日の私たちがいる、というバランスのとれた歴史認識のほうに、
私は真っ当な保守主義と時代感覚を感じます。

著書の一エピソードだけで判断しては失礼でしょうが、
安倍さんの言葉はイメージ的・理想主義的であり、
私たちがよってたつ歴史的事実にかんする深い思考や尊敬にやや欠けるのではないか、
というのが私の印象です。
おそらく安倍首相の本質は、「柔らかなアジテータ」であり「白い革命家」なのでしょう。
それは変えようがないとしても、首相として熟達し一皮むけるため、
よき師を招いてもっともっと歴史を学ばれることを、一有権者として私は心から祈ります。

そして正直に申せば。
「このレベルの知識や歴史認識で、靖国問題も考えている」のかと思うと、
ちょっとうすら寒いものがあります。
(これは自民党の若い代議士の多くに対して感じることです。)

その1 「安倍さんによればアメリカとヨーロッパの「リベラル」は異なるのだそうだ」
その2 「副島隆彦という人も同じようなことを言っているのだが・・・・」
その3 「ニュー・リベラリズムがアメリカの専売特許であるという言説は間違いである」
その4 「ニュー・リベラリズムの要素を持たない成功した資本主義は一体ありえるのか?」

ご参考:「A級戦犯は自ら分祀すべきである」

資料サイト:
世界史講義録 第94回  19世紀後半のイギリス
自由主義
自由主義(Wikipedia)
自由党(Wikipedia)
ホイッグ党(Wikipedia)
トーリー党(Wikipedia)
19世紀末~20世紀の年表
民主党 (アメリカ)

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Comment

1 - Name: kAbajyU : 2006/10/10 07:44

吉田さんのトピックにほぼ同感です。小生は読まずに語るなというタイプなので読破しましたが、失望しました。

小生は30代前半なので靖国問題には疎いのですが、個人の主観はさておき、グローバルな視点で思考出来ない政治家だろうと感じています。ただ、こういった方はアジア諸外国の首相から見ると操りやすいタイプかもしれません。

政治家が世襲を繰り返しているのが問題でしょうか?

諸先輩招いた勉強会を開催してイメージ先行の政治から抜け出して欲しいものです。ハードカバーを読むまでは真のナショナリストかと思っていましたので残念でした。


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