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ブランドを殺す国・中国 その2

2006/09/02
ブランドと経営

今年5月、中国では「自動車製品外部標識管理規制」という名前の法律が施行されました。
 (日経ビジネス 2006.9.4)
この刺激的なタイトルのエントリーを書こうと思ったきっかけの記事です。この記事によれば、
「先進国の常識から見れば奇怪な義務がメーカーに課せられた」
「販売する車両には必ず漢字の社名を記したエンブレムをつけなければいけない」
「それがないものは発売禁止」本法律の趣旨を要約するとこうなります。

ホンダは全世界で、HONDAを意味する「H」のエンブレムを使っていましたが、
これまで中国だけの特例措置としてこの「H」を使わず、
「広州HONDA」というエンブレムを使ってきました。
それがこの法律で禁止となり、さらに「広州本田」というエンブレムに変えることになりました。

トヨタも同様に「T」の字をかたどったこれまでのエンブレムをはずし、
地球と広州の頭文字(G)をモチーフにしたマークと、「広州豊田」という社名を使うこととなりました。
中国の簡体字の豊は、「主」の縦棒がしたに突き出たような漢字。
日本人はこの車がまさか、トヨタと関係あるとは気がつかないでしょう。
この変化に対応してか、トヨタは中国で非常に人気があるカムリを現地生産するにあたり、
「カムリ」の中国語名、「佳美(Jiamei)」を「凱美瑞(Kaimeirui)」に変えることにしました。
改名についてトヨタ側は、「トヨタのグローバル戦略にもとづくものだ」と説明しています。

中国政府が今年からスタートさせる国家計画「第11次5ヵ年計画」では、中国の自動車業界における自主開発力の強化を打ち出しており、近く正式に発表される細目では、
「自主開発車(中国にある企業が特許などの知的財産権を持つ技術によってつくられた車)を6割以上に引き上げる」という数値目標が明記される見込みです。

これらを考え合わせると中国政府の自動車産業戦略は、
「中国市場で自動車を製造販売したければ、
外国企業は中国企業に技術を移転し中国企業の自主ブランドで売ること」
「外国企業に流出する技術使用料、ブランド使用料をできるかぎり低減する」
「海外市場に、こうした中国企業の開発車をもって販売を行っていく」
という方針のように見受けられます。

この方針にどこまで従うかは、トヨタやホンダの経営者にゆだねられています。
拡大する中国市場を無視することはできないので、当面ある程度この戦略に乗らざるをえない、ということだと思います。
中国政府の戦略も誘い水と脅しを掛け合わせた巧妙なものだと思います。
しかしこうした戦略に則って人工的に作られた自動車産業が、長い将来ブランドであり続けることが可能なのだろうか。

自動車は現代社会ではブランドのベースとなる産業です。
(したがって中国政府の腐心もわからないわけではありません)
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、イタリア、スペイン、日本、韓国。
こうした国はそれぞれの国の特徴を生かした車つくりを行っています。
遅れてきた新参者である日本、韓国は、苦労しながら長い年月をかけて自主技術を開発し、
自国のブランドを、世界に通用する英語名で立ち上げました。
いまどきグローバル市場で競争できない技術やブランドでは、まともな自動車を作ることができません。
(その競争がいかに厳しいものかは、労働市場に歪みがあったアメリカの自動車産業の今日の衰退をみれば明らかです。)
そして私達今日の消費者はインターネットやメディアを通じて世界市場の動向に敏感です。
「世界で通用しているからブランドはブランドである」
中国の消費者も高度化すればするほど、同じ志向を持つのではないでしょうか。
(あるいは中国政府はインターネットやメディアを管理して、
中国だけ別の情報社会や消費者動向をコントロールすることが可能と考えているのかも・・・・)

5年、10年の間ならば中国政府の戦略上で、
促成栽培によって作ったブランドが成功することもありえるでしょう。
しかし数十年以上続くブランドというのは、もっと自分の足で地に立ち、自力でそびえ、繁栄するそのための安定したブランド遺伝子(DNA)のセットを持っていないと厳しいような気がします。
つまり促成栽培のブランドは所詮「クローン」であり、繁殖能力を持っていないリスクが非常に高いと思います。

私は官僚主義の悪癖はまさに、このような短期的・威嚇的な経済政策に現れていると思います。
中国政府、国営企業の官僚にとっては、
法律により5年、10年で実現できる利益こそが最大限達成しうる・可能な目的であり、
真のブランドのあり方(つまりは内在性、自発性、持続性)なんてことについては、思いが及ばないのだと思います。
上記政策にみられる「組織ブランドを持たざる国家のブランド構想力の限界」と、
「日本という国がブランドつくりの歴史に満ちているありがたさ」を、あらためて感じました。

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