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「気分一致」 第八回:ブランドの次

2003/08/24
人生・本そのほか
日本語パワーアップサイト ATOK.com
メールマガジン 『日本語のチカラ』 連載
「気分一致」 第八回 2003/7/7




 昨年末私は「ブランド」という本を宣伝会議社から出版いたしました。著名なCMプランナー岡康道氏との共著です。
 最初、その本のタイトルは「ブランドクリニック」にするつもりでした。クライアントがブランド病の患者で、僕たちがブランド医という趣向です。しかし川口清勝という、これも著名なアートディレクターの次の一言でそのネーミング案はつぶれました。「なんだか・・・・泌尿器科っぽくないですか?」。その厳しい一言を翻訳すると、「ブランドクリニックというタイトルでは専門家・業界っぽくなりすぎて、普通の、例えばOLが間違って買いそうな気がしないですね」ということだったと思うのです。

 そういうわけで、単に「ブランド」というタイトルにしました。調べてみるとブランド本は全部で300種類ぐらい出ていて、どんな形容詞や名詞をつけてもありきたりという印象をぬぐえません。このシンプル化は広告関係者がいうところの「まっすぐ」という戦略で、「よくぬけぬけと」と思われるぐらいで勝負した方がだいたいうまくいきます。

 「ブランド」という同タイトルの本はすでに岩波書店から出ていたのですが、それは要するに専門書、メジャーではない、ということで無視しました。その結果は正解で、2800円もする本が1万部以上売れました。対談という形式も、読みやすさを与える意匠として大きく働いたことでしょう。

 昨今、岡氏がまた来て僕にこう言います。「吉田、次の本だそうよ。タイトルはもう決めた。「ブランドの次」に」。確かにその本は売れそうです。ブランドの次、をみんなが求めている気もします。
 しかし、ブランドが今後21世紀の資本主義社会の、企業と市場、そして生活者の最後のよりどころではないか、という思いが僕からは去らないのです。岡氏は「対談をしてみなければ結果はわからない。そしてそういう結論だったとしてもいいんじゃないか」と言います。しかし、今の心境で「ブランドの次」というタイトルでの対談を進め始めてもいいものかどうか。

 あざとさと大胆とは紙一重。「ブランドの次」という言葉が羊頭狗肉に終わらないという確信が持てるまで、僕の逡巡は続きそうです。

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