「気分一致」 第十回:Web日記文学の黎明 |
2003/08/24 人生・本そのほか |
メールマガジン 『日本語のチカラ』 連載
「気分一致」 第十回 2003/8/5
久々に書架を整理していて蝶々さんというすてきな女性のことを思い出しました。蝶々さんは2年ほど前のことですが、シングルトンダイアリーという日記サイトで私生活、といいますか、ご自身の恋愛生活をWeb日記としてアップしていました。その私生活があまりに過激で面白く、愛憎と葛藤の精密な心理描写とドラマチックなテンポで進むので、大変な評判となりました。
そしてついにそのWeb日記は「銀座小悪魔日記」(宙出版)としてまとめられ出版されました(この日記サイトは、人気上位ランキングが表示されたりファン同士会話ができたりする面白いサイトでしたが、ビジネスモデルがなかったせいでしょう、その後残念ながら閉鎖されてしまいました)。
日本には、古くは「土佐日記」(紀貫之)を嚆矢(こうし)に「蜻蛉日記」(藤原道綱母)や「紫式部日記」など、日記文学の伝統が根付いています。大正時代には永井荷風の「断腸亭日記」(断腸亭日乗とも呼ばれる)がありました。目下連載中のものでは田中康夫の「東京ペログリ日記」(噂の真相連載)が人気NO.1でしょうか。ペログリのリアルタイム性も見事ですが、そのさらに先を行く日本の日記文学史上初の「Web日記文学」というジャンルが、「蝶々さん」によって確立されたのだと私は思っています。
作家の日記は、最初から他人に読まれることを想定して書かれる場合がほとんどで、通常はかなり手を加えてから公開されます。その内容が公開後に物議を醸すことがあっても、あまりリアルタイムではありません。一方、一般人の日記は公開を前提としないで書かれますし、事実出版に値しないのが通常です。
しかし、この一般人の日記がWebで公開されて大きな人気を呼ぶ、となると人生と日記の間に相互関係が生まれはじめます。日記の登場人物である、作者の知人や恋人などが次第に日記を読みはじめ、よく書かれたいとか、非難されたくないという動機から行動をするようになるからです。つまり、人生と日記がどんどんシンクロしてくるのです。
蝶々さんの人生=銀座小悪魔日記は、Web公開のおかげで、ホラー、ロマンス、スラップスティック(どたばた)の様相を呈することになりました。筆力と適度な露出癖と人生現場主義を標榜するド根性。特異な書き手がいてこそ、出版にいたった空前絶後のジャンルだと思います。ということで蝶々さん、日記がWebで公開されていようが、いまいが、さぞドラマチックな人生をお過ごしでしょうから、いつの日にか再開を期待しています。
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