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憲法における天皇制の矛盾

2006/02/08
歴史と社会

皇室典範の改正問題で考えたことがあります。

日本国憲法の機軸についてです。
機軸とは憲法の外にある憲法を作動させる社会的な装置。
憲法が始まる前の、国民と国家との契約の根源をなす存在です。
憲法というのは、それを機械的・合理的にクローズドに定めただけでは作動しません。
一見作動しているように見えても、精神がこめられていなければ、直に破綻がまっています。(もっとも完成度が高い近代的憲法のひとつであったワイマール憲法は、機軸を持っていなかったがゆえに、ナチスドイツの合法的侵犯を許しました)

明治期の立憲政治家は、欧米の先進国を観察して、憲法の機軸にあるのがキリスト教だ、ということを見つけました。キリストはすべての国民の上にたつ絶対者です。この彼との一対一の契約関係を通じて、国民は強固な相互契約が可能になります。国民と国家との自主的契約である憲法の背景には、この強固な宗教装置が動いていました。

一方士農工商および藩制度により分断された日本では、明治憲法制定時にそうした機軸が存在しておりませんでした。(それ以前の機軸は儒教であったが、それでは徳川幕府の正統化はできても、新しい国家制度の規範にはなりえなかった)
それで明治の立憲政治家は久しく「ぼろ神輿」同然であった天皇制を高く掲げ、教育勅語を「聖書」とし、近代的な国家神道を創設しました。
また天才であった明治天皇と、歴史を持った天皇制はその期待に大きく答えました。
そして国民に天皇を頂点とする血縁幻想をつくることにより、家族主義国家による、国民の精神的な統合を行い、世界史に残る激烈な近代化を行いました。
(その無残な結末はご存知のとおり)

この血縁カリスマ、血縁幻想が崩壊したのは、第二次世界大戦の敗戦時です。昭和天皇は人間宣言を詔書されました。国民が最も驚愕したのは次の一節です。

「然レドモ朕ハ爾等國民ト共ニ在リ、當ニ利害ヲ同ジクシ休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等國民トノ間ノ組帶ハ、終止相互ノ信頼ト敬愛ニ依リテ結バレ、單ナル神話ト傳説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(アキツミカミ)トシ旦日本國民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル觀念ニ基クモノニ非ズ。」

これにより神話的、血縁的な幻想は終了した、と一般には考えるべきでしょう。
しかしあいかわらず天皇は国民の統合の精神的象徴としての大きな役割を背負っておりました。
そのなによりの証拠は、憲法制定後のことですが、昭和20年代に行われた天皇巡幸が国民的熱狂を起こしたことを見てもわかります。
敗戦国の国王が最も警戒すべきことは暗殺です。「世界の歴史を見れば、戦争に完敗した国の「王」は亡命または自殺または人知れず不運な人生を終え、「王家」は途絶える、それが常識である。」
http://www.jiyuu-shikan.org/frontline/sonota/shouwa-tennou.html
それがゲリラが一人もあらわれるどころか暗殺者すら登場しませんでした。これは世界史上のひとつの奇跡です。

昭和憲法を設定するときに国民が行う相互契約の精神的機軸、として再び使われた天皇制は、その後も改定されず、日本国憲法の第一章(もっとも重要な項目)として残っています。
さていま。戦後60年たって憲法制定というときに、天皇という機軸なしで憲法が作動するものなのかどうか・・・それは「直しようがない」という消極的な理由以外に、そうである真理を見抜くべきことがらです。今後予想させる憲法改正においても、あいかわらず天皇が第一項になることは間違いないと思います。

天皇は憲法の中に規定されておりますが、今なお憲法を憲法の外から作動させる装置、という側面がまだ残っていると思います。これは・・・・・ゲーデルの不完全性定理同様、日本国憲法の根幹の強烈な矛盾と思います。
この件については、理解を深めた上でまた書き加えていきたいと考えています。

ご参考
動詞型生活者の誕生(PDF)

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Comment

1 - Name: bold : 2006/02/15 22:28

今から思えば。次はライブドア堀江氏の外国人記者クラブ「2005年9月)の発言です。
「天皇制は実際、象徴であるだけですからね。その、ま、これこそ結構面倒臭い問題なんで、、、だけ ど、別にそんなみんな気にしてないでしょ?別に権力があるわけでも何でもないし」「確かに憲法見ると、天皇は日本の象徴であるというところから始まるのは、僕らにとっ てはものすごく違和感を感じますよ」「そこについて歴代の首相、内閣、議会が変えようとしないのは 多分、右翼の人たちが怖いからだと思いますけどね」と発言した。

この発言の是非は別としてー私はいずれにせよ論ずべき事柄と思いますがー、彼がその後右翼に攻撃され、また右翼を騙る人たちにつけねらわれ、食い込まれた一つの要因ではあると思います。


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