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未来をリブランディングする

2001/05/07
歴史と社会

愛知万博の仕事をお手伝いするようになってから、未来という言葉は、今、もう一度ブランディングが必要である、ということを強く感じています。
人々が未来について考えたくない、というのは僕もよくわかります。
私達が未来に残した公的債務は、天文学的です。この国家的な筋肉増強剤を、これ以上長く続けることは難しいと思います。つまり、私たちはこの約30年もの間、未来から幸せを前借りしてきたのです。
戦後最も「未来」という言葉が素敵に輝いたのは、1964年の東京オリンピックから、1970年の大阪万博の間の数年間ではないでしょうか。ちょうど司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」が出版されたころにあたります。
その65年前の日露戦争の時代を再現するように、未来はばら色に輝いていました。
社会の志は明確であり、私たちは質実剛健な自分達の努力に見合う力強い成果を手にしていました。経済成長と技術発展は、無限の螺旋階段を登るがごとく、私たちの目の前に立ち上っていました。
大阪万博のときに有名になったイラストレーターに、「真鍋博」さんという方がいらっしゃいました。私達は、その人の描くイラストのとうりに近い将来、月に火星に、そして海中ステーションに住むほどの勢いでいたのです。
石油ショックや、その後環境問題として知られることになった「成長の限界」が、私たちの高度成長に待ったをかけ、私達の未来はその数年後、一転して予測不可能なものとなりました。
未来へ進むことは、順調な階段を登るような行いから、くるくる回転する不安定な縄はしごを昇るような行いに変わったのです。
しかし私達はその本質的な不安定さを、素直に受け入れてきたわけではありません。
その後二回、土地バブルとITバブルの物語が私たちを訪れました。
不安定な未来を本能的に避けたいと願った私達は、それを限度なく楽観視できるユーフォリア(euphoria=多幸症)を求めてさらに傷ついたのだ、と思います。

ところで、博覧会、とりわけ万国博というものは未来という概念と切り離すことは根本的に難しい、と僕は考えます。
今の楽しさを味わうために私達は歓楽街を訪れ、また歴史の楽しさを味わうために、遺跡や国立公園を尋ねます。しかし来訪者満足のために歓楽を提供する事、あるいは歴史や自然を体感させる事は、万博の本来の趣旨とはことなります。
万国博が、その本来の意義に基づいた来訪者満足を行うためには、今世界にないもの、あるいは見ることが稀であるものを、展示しなければなりません。
それらが斬新である、ということは、それらの事物に正統性があり、つまりそこだけに出現した奇矯なものではなく、その後の歴史の一部となって残る、つまりは未来を形作るものであるべきなのです。
今日万博という言葉が若干正統性を失いつつあるのも、万博が分かちがたく結びついている未来という概念に対して、私たちがこの25年間募らせてきたペシミズムが影響しているからに違いありません。

大阪万博の象徴は月から持ってきた石でした。
それはその後大量に月の鉱石が地球に来る、あるいは、火星の石が未来の万博に来る類の予感を、そのときには感じさせました。しかし、それは結局実現いたしませんでした。
つまり、月の石が象徴した科学技術は、それほど正統なものではなかった、ということかもしれません。
しかしそうした袋小路や陥穽に入り込む勇気や自由度も、私達には必要です。
私達は未来というものに果敢に飛び込む勇気を失うべきではありません。
私達は未来に対して、常に正しくあることはできません。
正統性のセンスとユーモアを失わず、過ちを認めて修正するという作為の繰り返しが、私達の力強い歴史を形作ってきたからです。

予測ができない事態に対処する、自分の能力や気力を信じることができるかどうか。
この確信の有無が、私達が未来をどう捉えるかー明るいものとして見るのか、暗いものとしてみるのかを決めると思います。
未来をリブランディングする。
このことは、ですから「今ある己をその過ちを含めて信任できるかどうか」の一点にかかっていると、僕は思うのです。
単なる未来批判は、今の自分を信任できないと白状し、また未来が自分によってではなく、誰か他の人の手によって左右されているという被害者意識の表明を行うことに、他なりません。
それは陳腐でかっこ悪いということに、そろそろ多くの人々は気が付き始めていると僕は思います。

僕がこの仕事に携わる上での真っ当な望みは、万博を契機に、未来に対する僕たちのペシミズムが払拭されることです。そして、万博を訪れた人が自分への信任を強めて帰っていく。未来の新しいブランディングが表現される。万博がもしそんなイベントになったなら、と僕は願っているのです。
(宴の後で自分が空しくならないよう願うのみです。)

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