ワールドカップフランス大会で考えた事-なぜ「チケット」問題が起こったのか |
1998/07/01 ビジネス |
関係者によるチケットの二重販売というのは、ISL(世界サッカー連盟のマーケティング会社)の関連会社にせよ、チケットを盗まれたというあざとい記者会見をしたアメリカの公式旅行エージェントにせよ、イギリスの旅行業者にせよ、ある程度の知能や立場を持った人間にとって「犯罪行為の確証がすぐに取れてしまう」という意味で、基本的に個人にとって割に合わない犯罪であり、どこかで「計算違い」があった以外に考えられません。
まず、ワールドカップのチケット価格は「南北問題」を反映して、先進国から見れば非常に安い価格となっています(カテゴリー1で350フラン、2で250フラン)。ですから、正直に言えば政治的に行われる「南」への割り当ての少なからざる量が「ダフ行為」を通じて北へ還流せざるを得ない気がいたします。(それを無理に禁止いたしますと、戦時中の割り当て制度にも似た、何か自然の摂理に逆行するような気がいたします)
ところが、ダフ行為自身はほとんどの先進国で禁止されていますので、このメカニズムは基本的に「アンダーグラウンド」にならざるを得ません。ですからオリンピックにせよ、ワールドカップにせよ、ワールドイベントのチケット販売というのは、ある種マフィアの介在するグレーマーケットとならざるを得ません。
上記の犯罪容疑者についていえば、日ごろのチケット販売業務を通じてマフィアとの接触があったか、あるいは借金その他の個人的理由で「食い込まれていた」可能性があります。(恐らく永遠のなぞですが)
それで、これまでのワールドカップでは、手慣れたマフィアの手によって、さしたる事件とならずこなされてきた「ダフ販売システム」が今回何故破綻したのか、という点ですが…・
1)胴元が「まじめな素人」であった
今回フランス組織委員会は、チケット予約権を1年以上前に個人向けに先売し(組織委員会の資金還流のため)、それをチケット偽造防止およびダフ行為を制限するために、極めて短い販売期間(約2ヶ月)で、上記の個人向けに発送するという思い切った手法を取りました。
相対取引を基本とするアンダーグラウンドマーケットでは、価格と数量の調整に相当な時間がかかります。(今回の仕組みは、それを防ぎたかったのですから当然ですが)、その市場メカニズムが機能する時間が足りませんでした。
フランス組織委員会は、流れたチケットを再販する仕組みを作りましたが、それは勿論定価でしたので、人気のない試合ではある程度機能したようですが、日本戦やイギリス、ブラジルなどの「人気カード」のチケットは勿論「ヤミ市」に流れてしまったわけです。
2)極端な売手市場になった
もともとフランスは競技場が古くチケット数が少ない上に、競技場改変による座席数の変更などがあり、割り当てが少なくなりました。(前回のアメリカ大会よりも100万枚近く少ない)その一方で、ヨーロッパ・アメリカにおける好況・空前の中産階級におけるサッカーブーム(不況のはずの日本からもとんでもない人数が参加を希望)が起こり、マーケットは「ダフ市場参加者」の当初の予想を越えた急騰をいたしました。
3)俄かダフ屋の跋扈
プロがここぞと張り切る難しい市場に、沢山の「素人業者」が参入をいたしました。(パリにいる土産物業者・日本の旅行代理店など)この市場はクローズドな参加者による情報交換(噂話の交換)が必要不可欠ですが、今回はそれが機能しませんでした。3万5000人規模の競技場に日本から4万人以上が来るわけですから、現地では1ヶ月前に今回の破綻が確実視されていました。最低、日本の会社どうして情報交換をしていれば、日本への還流がせいぜい2万席程度である事が分かったはずですが……「ダフチケット」がメインの旅行パックを、大量に免責無しに売る「リスクマネジメント」が信じられません。
日韓でワールドカップを共催する2002年の事を考えると頭が痛い限りです。上記の3つの原因、1)まじめな組織委員会2)空前の売手市場3)素人のダフ市場参入に、更にノシがつくのではないでしょうか。(それに、恐らく韓国から大量のチケットが流れてくるはずです)
解決のアイデアがあるわけではないのですが・・…
私の知る限り、素人によるダフ行為はそれが生業かつ恒常的(かつ大量)でない場合、処罰対象ではありません。(リクルート社のジャマールをみればわかりますが)
むしろ素人によるダフ市場をグローバルに作ってみて、その価格を参考に様々な「ダフ市場参加者」が速やかな値付けを考えるといった「大人」の解決策がないと、「ダフ厳罰」主義だけではとんでもない混乱が起こる予感がいたします。
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