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記名と実名と匿名と(中井亀之助として一言)

2005/05/29
匿名と炎上

 これはちょっと前にかいたものですが、この議論が最近話題になっているので若干書き足して再掲いたします。
 最近話題になっているBlogの書き手に、小倉秀夫さんという人がいます。
ちなみにこの方はITと法の専門弁護士であり、「ファイルローグ事件」というP2P(匿名個人間型のネットワーク)の違法音楽コピーで訴訟を受けたのダウンロードサイトの被告弁護人をつとめていらっしゃるそうです。

 この人のブログがお祭り状態になり、激しく炎上しつつも数ヶ月がんばっておられました。
 http:// blog.goo.ne.jp/ hwj-ogura/


 この人は名コピーライターです。批判コメントが束になってくる状態を「コメントスクラム」と名づけ、ネット右翼に対して「カミングアウト」を呼びかけています。炎上にむけて、実に挑発が巧みです。
 しかし炎上がすぎたのか、そのサイトは最近閉じられて、彼の個人サイトへと議論の場が移行しました。炎上はあいかわらず続いています。
Annex of Benri
この方は大変な精神力だと思っており、実は(ちょっと)感銘をうけています。損得ではまったく考えられない主義主張のされ方です。

 サイトの炎上の原因はいろいろあるのですが、当初よりあって、現在もそれで燃え盛っているのが、実名、記名、匿名をめぐる議論です。私も「中井亀之助」として議論に参加しており、最近ついに実名との関係をあかしました。

 基本的に小倉さんは匿名による投稿を価値観として「卑怯」と断定、それによる誹謗中傷を防ぐために、2つの主張をしておられます。
 1)万が一法的な問題に発展した場合にそなえて、プロバイダーは加入者の身元をきちんと把握しておくべきである。(誠実な第三者の実名把握)
 2)批判というものは仮に法的な課題を備えていなくても批判という形をとった時点で、批判された側に批判者の身元を通知すべきである。(誠実な第三者から被批判者への実名告知)
 例えば1)についての先生の発言を引用しますね。(相当わかりにくいです)

 「トレーサービリティを確保するためになすべきことが具体的に明示されており、かつ、それが技術的に可能でありかつサービス提供者に過度の経済的な負担を課さないものであるならば、トレーサビリティを確保するための特定の行為をサービス提供者に法的に義務づけることに私は反対しません」
 ようするに仮名から実名確認できる法的義務付けをすべきである。なぜなら「そうすればそもそも違法行為を行おうと試みる人が少なくなるから、その本人にとっても好都合のはず」。簡単に言うとそういうご主張です。

 この1)の主張について。私の推測ですが、小倉先生がファイルローグ事件の弁護の困難性に直面して「これは僕やファイルローグだけが抱える問題ではなくて、匿名性の高いBlogとか、ネットの住人全員が直面する問題なんですよ」という意見主張に傾かれたのではないかと思われます。
 しかしなのですが。現在同じくきわめて匿名性の高いスカイプなどのP2Pの電話が登場しておりますが、そこに発生する違法性はきわめて軽微です。ファイル交換では「著作権違反」、Blogでは「名誉毀損」などの違法行為が起こりえるのですが、電話ではなにも起こりえません。同じく匿名であっても「コンテンツ流通」、「メディア」、「通信」ではまったく法的問題の所存も、法対応のあり方も変わってくることは自明です。落合弁護士もほぼ同様の趣旨を述べられています。
http:// d.hatena.ne.jp/ yjochi/ 20041105

 小倉先生への批判的なコメントの多くは「コンテンツ流通で匿名性を弁護しておいて、なんでBlogにまで問題を広げるようなことをいうのだ!」という反応であったと感じました。僕は小倉先生は、「それは違法行為を起こした特定のファイル事業者の責任ではなくて、すべての事業者に実名登録と簡便な通知を迫っていない日本の法体系の問題なのだ」という主張なり確信をお持ちなのだと思いました。
 この特異なご主張がまず第一の炎上の理由でした。

 で、次にその2)。大火災を招いた論点「被批判者への批判者の実名告知」について。小倉先生は最近、次のように論じられます。
「匿名掲示板などで個人情報を晒すなどの相手のいやがる行為を行うことにより、自分とは異なる意見を表明する者に、そのblogを継続する意欲を奪う、あるいはblogを継続することに恐怖を感じさせる人々というのは、思想の左右を問わず、「民主主義の敵」と言っても差し支えないように思います。」
とまずは実名秘匿に理解を示します。しかし次の瞬間には、
「個人情報を暴いた人々の弁明にもあるとおり(実名把握と暴露)は自然な感情であるとは思います」と揺れ動きます。
 私は人の感情はゆれ動くのが当然だと思います。誰しも自分や味方、善人の個人情報は守りたいし、敵や悪人の個人情報が暴露されれば喝采を叫ぶ。人間の心ってそんなものじゃないかと思います。

先生の主張はどんどん過激化の一途をたどっています。

匿名論者は匿名による弊害をどう除去するつもりなのでしょうか

実名主義の弊害?

発言者のトレーサビリティを高める立法の合憲性

まあ感情の発露ということなら、非常によくわかります。

 しかし私が、聞き逃すことができにくいのは、次の一言です。

「社会的なシステムとしては、インターネット上で批判を受けた者は、自らを公然と批判する者がどこの誰であるのかを──それが正当な批判であれ、不当な批判であれ、批判の名を借りた単なる個人攻撃であれ──知ることができるというものが望ましいのではないかと思います。」
「真摯な内部告発等を保護するためには、いくつかの条件を満たした組織等に汎組織的な内部告発受付窓口としての機能を負わせ、当該組織等において一応の真実らしさを確認したときにこれを公表するようなシステムを作ることこそが必要」

 ここまで踏み込んで2)について拡大発言をされています。
 「汎組織的な内部告発受付窓口」「当該組織における一応真実らしさの確認」というのは国家政治保安部とか、ゲシュタポなみに恐ろしい組織コンセプトのように僕には思われます。そして「批判者の実名把握」という言葉は、ドイツ革命の成就に奔走したマルクスの弟子のユダヤ人女性革命家ローザ・ルクセンブルグのエピソードを僕に思い出させます。
 彼女は革命ソビエトの新しい選挙制度が無記名投票を採用しないことを知り、ソビエトの未来に対してひどく失望して絶句したのです。

 これも私の推測ですが、Blog上で小倉先生への批判が増加し、おそらくはBlogを掲載する価値よりも掲載するリスクの方が大きくなってしまった現状への非難感情が強まって、1)と2)を次第に混するようになられてしまったのではないだろうか。あるいはそもそもが1)と2)が先生のなかでは近しいものであった、という可能性も正直あると思います。
ちなみに2)が成立する条件として、○ あらかじめ1)が成立していること。○ 組織がクローズドな社会で強い強制力を持っていること、○ 被批判者が真実らしさを証明できるような正統性や権力を得ていること。などがあげられます。

 私は近代主義者として、法的な問題と、価値観や美意識などの心根の問題を混同するようなすべての社会システムに反対なんですね。このケースでは1)と2)はとんでもなく距離がある話にしておいてほしい、と心から思うわけです。それを峻別するのが近代法や近代組織の原則なので、ネットも是非そうあってほしい、と思っているのです。法律問題は法律で解決するとして、美意識とか価値観など心根の話とは隔絶していただきたいと願っています。

 ちなみに、このサイトにたどり着いた人がわかるように、私はネット上で記名性を保ち、さらには実名も個人情報も明らかにしています。それは私が先生同様、一個人事業者で大きな組織に属していないから、ようやくできることだと思っています。
 学校の教授(は自立していないですがね)や弁護士、コンサル、評論家などの職種がそうですが「自立した知的強者」としての自己認識があるため、あえてネット上で実名にしているのだと思います。そしてもちろん、アイデンティティの満足や広告効果を含めて、自分の記名性による大きな恩恵を受けているわけです。その実名性はその恩恵とは裏腹に、Blogによるリンクや拡散が登場した現在、自分の一貫性へのリスクあるチャレンジなのです。
 でも僕はそれをネット上の多くの人々にまでは求めません。個人名を明らかにすれば組織に迷惑をかけるであるとか、あるいは単にわざわざ名乗るほどの事や経験がはないと考えている知的誠実さを持った人々が、たくさんいるのだと思います。
 もちろんはるかにより多く、知的でも誠実でもない匿名の人々がいるわけですが、彼らの批判はほとんど恐れる必要はありません。

 実名をさらすものがネットを味方につけようとするならば、私は「地の塩」=匿名であっても知的で誠実な人々個々の自由意志・自己判断能力に対する想像力や信頼が大事だと思います。自由意志・自己判断能力をもった匿名の人々が、まともでない匿名の人々に対する唯一有効な盾になってくれるからです。
 で結論は。匿名でも記名でも実名ですらも、まともな人もいれば、一貫性の保てる人と保てない人がいるという平凡なことではないでしょうか?

感情と計算は似たようなものである
@bold「ブランドの善悪理論実践編」

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Comment

1 - Name: 吉田 : 2005/07/18 19:16

お祭り状態になり、激しく炎上しつつも数ヶ月がんばって下さい。

2 - Name: M : 2005/07/22 02:04

こんな発言しているけれど、自分がamazonの素人レビューアーにしたことはまだ記憶に新しいのではないかと思います。
いずれにせよ、「一貫性」という言葉をあなたのような人は軽々しく使わないことですね。読んでるほうが恥ずかしくなってきますよ。


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