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多チャンネル化と広告放送

1999/12/01
ビジネス
これは「放送の経済学」という本に載ったもので、早稲田大学商学部の中村先生、慶応大学の菅谷先生が中心となって行った研究会のまとめです。
私が書いた下の文章はその10章にのりました。
(両先生方、いくらなんでも執筆者の名前(とか履歴とか)、もう少し大きく出してくれてもよかったじゃないですか!)
あと・・・本の発刊が遅れて超多忙だった私は校正が出せず、ご迷惑をおかけしました。
なにしろ部下にやらせる事も出来ず、データのリニューアルに死ぬほど苦労をしてしまったのです・・・


目次

1.アメリカにおける多チャンネル化の現状と日本への示唆
2.日本における多チャンネル化の現状と今後
3.多チャンネル化の広告放送局に与える影響
4.多チャンネル化に対する広告放送局の対応



1. アメリカにおける多チャンネル化の現状と日本への示唆

 伝送路の多様化や新しい放送システムの登場が既存の地上波放送局の経営にどのような影響を与え、こうした新しい放送産業と既存の広告放送局の関係がどう推移するかについて論じる。既にこうした変化が現実のものとなっているアメリカの実例を主として参照しつつ、産業システムとしてはアメリカと異なった特徴を持つ日本の放送業界における今後の進展を考えることとしたい。
 衛星放送と地上波のデジタル化が98年今日の日本の放送業界を大きく揺さぶっている。しかし「デジタル化」そのものが直接革新をもたらす意義を既に持っているわけではない。圧縮技術に象徴される映像情報のデジタル化のメリットが顕著になったのは、たかだがこの数年であり、伝送コストの低減も今のところ3倍程度(同じ画質の映像情報を伝送する帯域幅)にしかすぎない。この3倍という効用比は、産業(とりわけその伝送機能)全ての革新を直ちにもたらすほど劇的ではなく、日本、あるいは海外を含めて全ての放送産業がデジタル化されるまでには、かなりの長い年月を必要とすると予想される。デジタル化の最大のメリットになるであろう文字、音楽、画像、通信との融合-マルチメディア化はテレビメディアの変質を予感させるが、まだ現実のものとはなっていない。
 現在のところテレビメディア変革の大きな要因は、デジタル化がその手助けをしたといえる「伝送路の多様化やコストダウン」と、「視聴者個々の把握(アドレサビリティ)」の2点である。その結果、サイズの異なる様々な放送局の成立が可能になった。新しく登場した放送局の番組内容や編成戦略は、総合編成局に比べてはるかに柔軟であり、結果として視聴者のチャンネル選択に多様性を与える事になった事は、既にCATVの進展を通じて上記の2点を達成した国々で証明されている。
 ところで、「公共性」をテレビ産業と不可分のものとして自認してきた既存の地上波放送局や行政当局にとって、コストダウンやアドレサビリティの具体化は、市場競争の登場如何を問わず、自らの存在基盤や既存の法的枠組み[1]への直接の挑戦となっている。「テレビ産業の公共性」が前提としてきた、電波の希少性や、サービス受益者の把握の困難さ、サンクコストの大きさ等公共産業としての条件が自明ではなくなったからである。[2]広告放送局にとっては、競争に直面しうる私的産業としての自己改革や切磋琢磨、公共放送局にとっては新しい公共性の再定義や再構築が最大の経営テーマとなりつつあるといえるだろう。


2.日本における多チャンネル化の現状と今後

 しかしこの変化が、産業の一部先端ではなく産業全体に及ぶ性質として実現するためには、新しいプラットフォーム(CATVや衛星放送)の市場規模が、多様な放送局が存続可能な程度の閾値(クリティカルマス)に到達することが必要である。こうした伝送路の多様性を実現する主力メディアは、1970−90年代にはCATVであり、80−90年代はCATVに変わり直接受信を行う衛星放送が登場した。2000年以降はもしかしたら、地上デジタル放送と電話線網(およびインターネット放送局)がマージナルな役割をになう事になるのかもしれない。[3]
 先進国の中では、目下のところこの伝送路の多様性でもっとも先行しているのがアメリカであり(図1)多様化の主経路はCATVが担っている。一方イギリスや日本(図2)ではその主経路は衛星放送となっている。これらの結果を見る限り、多チャンネル化が産業制度として実現した時期やその国独自の産業構造が、主経路を決めているといえるだろう。つまり、多チャンネル化の道程は経路・歴史依存的であり、地域によって大きく異なる事が想定される。[4]

(表1)日米英の受信料・広告・有料放送の市場


 日本では、1988年から登場したBS衛星放送が世界的に見て格別の発展を遂げ、表3に見るようにBS衛星放送が、多チャンネル化を行う主経路となっている。世界的に見ると、規制緩和と技術革新のおかげで、ほとんど差異がなくなったBS(放送衛星)とCS(通信衛星)両制度においてCS制度が主経路として発展を行ってきた。それに対し、直接受信を行う衛星放送をいち早く実現した日本では、多チャンネル化のチャンネル数に制約があるBSに制度的基盤をおいた発展を行った。そのため現実的には、[5]モアチャンネル市場(現在のBS放送であるNHK2波,WOWOW、あるいは2000年からのBSデジタル放送開始に伴って参入する既存地上波放送局を中心とするチャンネル)とマルチチャンネル(CATV局、デジタルCS放送を基盤におくモアチャンネル以外の放送局)の2市場に多チャンネル市場が分離しているといえよう。



 2000年以降CS、BSとも委受託分離制度の下、CS上に2つの受託放送会社と100近い委託放送会社が、BS上には一つの受託放送会社とNHK,民放を主たるメンバーとする委託放送会社が存在している。[6]現実として、この2つの制度差は、放送番組を供給する委託放送のメンバーに既存の地上波放送事業者‐端的に言えばNHK(および民放局)-を含むかどうかが最大のものである。
 近い将来BS、CSのデコーダが共用化する可能性が高く、さらにBSデジタル放送が行われる東経110度においてCS放送が行なわれれば[7]、両者での高画質放送が可能になることと合わせ、技術的な制度差はほぼ消滅する。一方、委受託分離が行われたことにより、委託放送事業者は特定プラットフォームの利害から離れた経営判断を行うのが合理的となった。民放局の中でも、フジテレビなどはスカイパーフェクTVに出資を行い委託放送事業を行うなど、CS、BS両方への進出を目ろんでいる。2000年以降に実施される民放系のBS放送局にとっては、BS、CS両方の視聴者市場を獲得することが合理的戦略となる可能性は高い。[8]
 一方、NHKとWOWOWはすでにモアチャンネル(BSアナログ)でのビジネスを行ってきたことがあり、それぞれ容易にはBS、CS両面への参入が行えない事情がある。[9]こうした状況の中で、BS、CS両市場を「融合する市場」とみるのか「競合する市場」とみるのか、によって各社の対応は大きく分かれることになろう。





コラム1 何故伝送コストが高いプラットフォームでは同じような総合編成・番組内容が増えるのか

 伝送コストが高いと、その伝送コストを賄うためにより多くの視聴者を獲得する必要が生じる。(図1)一方視聴者の選好は図2のような分布と考えられ、より多くの視聴者を獲得しようと考えると、中核的なマスオーディエンスの獲得が合理的になる。この層における幅広いを獲得するためには、総合編成によって1チャンネルの中に多様な番組ソフトを保持する事が必要となり、さらにその番組コストを賄うためにより多くの視聴者を獲得する事が必要となる。



  一方伝送コストが低ければ偏差の大きな視聴者の選好に焦点を置いた番組ソフトや編成が可能であり、むしろ他局と差別化をして独自のドメイン(市場領域)を確保・独占する事が合理的な選択となる。






コラム2 何故有料(ペイ)テレビは広告放送よりも多様な編成・番組内容を行う事が可能なのか

 広告放送の場合、視聴者のスイッチングコスト(チャンネルを切り替えるコスト)が非常に少さく、視聴率制度によって視聴時間が収入に直結するために、マスオーディエンスを獲得する競争はゼロサムゲームに極めて近くなる。さらにマスオーディエンスの選好は一様であり、競争上の差別化要素は多くない。一般に差別化要素が少ない競争は激しくなる事が知られている。[10]


  一方、従来有料(ペイ)テレビは、チャンネルの切り替えではなく契約の切り替えにより収入が変動するため、その競争はそれほど激しいとはいえない。むしろ同一パッケージに入っており、同一ジャンルではない放送局間では、自社が提供できないメリットを他局が提供すれば、パッケージング全体の契約数の向上や解約の低減が見込めるため、局間競争はプラスサムゲームとなり、協力関係にある事になる。そのため各局の戦略としては、他社が真似できない差別化を狭い領域で確保することが、自社にとっても産業全体にとっても合理的となる。



3.多チャンネル化の広告放送局に与える影響

 本節では、主としてアメリカにおいて多チャンネル化が放送局に‐とりわけ広告ネットワーク経済に‐与える影響を観察し、次節で日本の放送産業の実態と照らし合わせることにする。衛星放送の普及率が30%程度である日本では、これまでBS衛星放送が広告放送局に与える営業的影響は顕在化していない。しかしNHK衛星放送の登場で民放のスポーツソフト獲得は制約を受け、WOWOWの登場によって映画ソフトの視聴率に変化が起こり映画番組が減少したなど、民放局の制作・編成サイドに対しては大きな影響を及ぼし始めている。[11]今後BSデジタル放送や地上波のデジタル化によって多チャンネル化が進む過程で、アメリカにおける先行実例は大いに参考になりうると思われる。

1) 多チャンネル化と視聴の細分化
 現在アメリカの多チャンネルにおいて何らかの形で地上波以外の伝送路によってテレビ視聴が可能な世帯は、全テレビ世帯の75.9%に上っている(下表)。これらの多チャンネル放送加入者は、おおよそ月額30ドル弱の視聴料を負担している[12]。この数年衛星放送が活発に契約を獲得しているとはいえ、この多チャンネル化の原動力は主としてCATV事業の進展によるものであった。



 上表は、過去のCATVの普及率上昇とネットワークの視聴率低下を比較したものである。視聴者との時間獲得競争という点では、明らかにネットワークとCATVとは直接的な競合関係にさらされてきた。CATV産業は、加入世帯数の伸びに応じてプログラミングに対する投資を増加させ、ますます多チャンネル化の道を歩むことになった。そのため、CATVが視聴者の時間獲得競争において有利であったといえるだろう。さらに3大ネットワークにとっての競合として、新しいネットワークが登場してきた。現在、FOX、WB(ワーナーブラザース)、UPN(ユナイテッドパラマウント)のハリウッド系ネットワークに加え、PAXという新ネットワークが登場することになり、計7つのネットワークが存在する事になった。
 こうした新しいネットワークが登場することになった理由には、CATVの存在が大きく寄与している。というのは、CATV事業者に対する地域放送の再送信が義務付けられているため、設備的・内容的に劣悪な地上波放送局とのネットワーク契約を主要マーケットで獲得すれば、その地域におけるCATVチャンネルにおける「放映権」をこうしたネットワークは容易に獲得することが可能である。さらにCATV視聴世帯では地上波視聴世帯に比べ、チャンネルスイッチングがより多く行われており、新規ネットワークであってもある程度の視聴率を上げやすい環境であったことも寄与しているだろう。従来、地上波放送局における送信設備や「ブランド」を含め膨大な新規投資を同時に行わなければ成功が難しかったネットワークの構築が、CATVというプラットフォームが完備したことにより、比較的低廉なコストで可能になり参入障壁が低下したと言うことができる。
 ネットワークの番組制作流通における規制(いわゆるFin-Syn Rule)のため、制作会社優位であったアメリカの放送産業は、こうしてハリウッド系の放送会社[13]が登場することによってますますその傾向を強めているといえる。
 さらにもう一つチャンネルセグメンテーションの点から見過ごせないことは、3大ネットワークは長らく全国における独占状態を続け、顔無き「サイレントマジョリティ」の獲得競争を行っているうちに、チャンネルのブランドイメージはぼやけ、その中核的な視聴者はRuralの高所得ではない中高年層におかれることになった。一方マーケティング的な視点からは都市型、若年、高所得階層が望ましいが、3大ネットワークとクライアントや代理店が求めるターゲットに乖離が生じていたと考えられる。FOXやMTV、Discovery、などはその隙に乗じてこうしたターゲット向けの番組編成を行いチャンネルのブランド化に成功したといえる。[14]
 いずれにせよ、大は3大ネットワークから、新興ネットワーク、スーパーチャンネル(MTV、CNNなどのCATV上で全国ネットワーク化した放送局)、それ以外の独立系地方局や全国化していない放送局にいたるまで視聴の分散化が進行しているといえよう。

2)視聴の細分化と広告費
 ところで、こうした視聴の分散化は広告収入にどのような影響を及ぼしてきたのだろうか。
 次表は、80年代から最近にいたるまでのテレビ広告費の推移である。



 各広告費を比較してその推移を見てみると、次のようなことがいえる。

  ○ CATV広告費のシェアは確実に高まっており、特に90年代に入ってからその伸びが顕著である。
  ○ 全テレビ広告費の全広告費に対するシェアは伸びているが、一方地上波広告費のシェアはほとんど一定である。つまりテレビ広告費の全広告費に占める比率の伸びに相当する分はCATV広告費増によってもたらされているといえる。
  ○ オールドメディアの代表である新聞広告費と比較してみると、全テレビ広告費は90年代に規模において逆転した。地上波テレビ広告費だけと比較しても、シェアを伸ばし規模で凌駕する時期が近づいている。[15]

 こうした推移を総合して考えると、CATV広告費の伸びが主としてテレビ広告費の増加に寄与する原因であったといえるが、地上波テレビ広告費だけをみても、特にその伸びが広告費全体に比べて低かったとは言えず、特に同じくオールドメディアの代表である新聞広告費と比べると、それより大きな成長を行っていることがわかる。先ほどの視聴率シェアの低下傾向を考え合わせると、一視聴者あたり-広告では到達コストの算出にCPM(コストパーミリオン(百万人あたりの到達コスト)、あるいはCPR(コストパーレイティング)という単位が使われるが-テレビ広告の視聴者単価が高騰したということができる。このことを単純に比較するために、暦年のネットワーク視聴率によって地上波広告費を割った数字を調整し、実際のアップフロントにおける30秒スポットのCost Per Point[16]と同じグラフに表示したのが下表である。
 多チャンネル化によってこのような地上波テレビの広告コストの上昇が生じたのは何故だろうか。端的な理由は以下である。アメリカにおいて、テレビ広告単価は強く市況に左右されている。多くの広告主はキャンペーン当たりの獲得視聴率(例えば最低2000GRP)を決めて広告出稿計画を立てる。多チャンネル化による視聴の分散化によって、最低獲得視聴率を実現するスポット本数が増加するため、売り手市場化が強まることになる。つまり皮肉なことに「スポット一本当たりの平均視聴率が低まったために、スポット市況の高騰が正当化された」ということになろう。こうした広告単価の高騰や費用効率の低下は、広告主の地上波広告離れを加速しそうなものであるが、キャンペーン効果という観点からテレビ広告に匹敵するメディアは存在せず、また高騰したとしてもそれでも他のメディアに比べて割安であったために、この乖離が許容された、と見られる。

図2 地上波広告コストの上昇


 但しこの数年CATV広告費は急増しており、CATV業界もネットワークに並びうるメディア・ブランドとして積極的なマーケティングを行っている。CATVの広告コストは地上波テレビ広告に比べて30%程度安いとされているが、この効率性に加え、広告主や代理店の間に広告メディアとしての認知が広まってきたこと[17]、地上波テレビ局とCATV、ハリウッド間の資本の一体化が進み、CATVがマスメディアと一体の広告獲得戦略を取れるようになってきたこと[18]、加入世帯の上限が近づき契約料拡大よりも広告獲得のほうがCATV産業にとって効率的な戦略になってきたことなど、産業としての成熟化が進んだことによって広告メディアとしてのCATVの魅力が増大していると考えられる。この数年の現象はようやく地上波テレビと裁定(Arbitrage)が働きうるメディアとしてCATVが登場してきた事を感じさせる。[19]
 広告はクライアントにとって巨大事業であり、新しいメディアへの配分を増やすのはクライアントにとっても代理店にとって大きなリスクをはらむ。さらにメディアを変えた場合の効果変動の厳密な測定や比較には困難が伴うため、その配分の公式化が難しいことも変化を起こしにくい理由にあげられる。その意味でメディア使用の変更にはイナーシア(慣性)が働きがちである。CATVがメディアとしての成熟を行って数年がたち、ようやくその影響力を広告主や代理店が受け入れる抵抗が少なくなったということもできる。

3)広告ネットワークの変質


 視聴率の分散化に比例する形では広告単価の切り下げが起こらなかった現状は、それではネットワークの経営にプラスといえるのであろうか。現状はそうではなく、収入増以上の経費増が起こっており、ネットワークの経営—とりわけ3大ネットワーク-はますます難しくなっているといえる。上表はプライムタイム1時間当たりの平均制作費であるが、過去うなぎ上りに上昇し、とくにこの数年の上昇率は広告収入の伸びを大きく上回っている。



 上表は主要ネットワークのネットワーク部門と直営局部門の直近の収益率であるが、ネットワーク部門で黒字なのはNBCと辛うじてABCのみであり、CBSおよび新興のネットワークでは-もっともその赤字の意味合いは大きく異なっているが-全て赤字となっている。
 その理由であるが、過去ネットワークがローカル局所有においても番組制作においても強い規制下にあり、その両面への進出が拒まれたため、事業ドメインの拡大が困難であった構造問題が起因していると思われる。ネットワークのVHF局の直営局保有[20]に関しては、集中排除ルールにより人口シェアで35%以内という規制下にある。CATVという隘路の登場は、新興ネットワークの参入障壁を低下させ、3大ネットワークには不利な状況が到来した。一方でローカル局は-直営局にせよ系列局にせよ-must carry ruleによってCATVの伝送機能を利用することができたため、自社の電波設備に投資をする必要がなく[21]、収益性の向上につながったといえる。
 このような状況に直面したネットワークの活路は、食い合い(canivarization)を恐れずCATVネットワーク事業へ進出することによって、ローカル局経由以外の番組供給力を所有し、視聴者に対する接触面積の拡大をにあったと思われる。その意味で、CATVへの展開に比較的成功しているネットワーク(NBC、ABC)とあまり成功したとはいえないネットワーク(CBS)の収益性が大きく開いているのは偶然ではないであろう。
 一方番組制作事業への進出ではFIN-SYNルールの改正によりスタジオとネットワークの垂直統合が可能になったが、この融合の勝者はスタジオ側であってネットワーク側ではないように思える。皮肉なことに、CATVチャンネルがセグメント化によって自局のチャンネルブランドの構築に成功したのにたいし、ネットワークはチャンネル全体のブランドイメージがぼやけ、むしろブランド化しているのは個々のプライムタイムの番組である。こういった番組は獲得視聴者数においても、制作金額規模においても、ゆうに一つのCATVチャンネルに匹敵する規模の「事業」であり、この個々の番組のブランドパワーがCATVを凌ぐ最大の武器である。しかし、これまで規制下で造られた商習慣と番組市場がいっそう売り手化したおかげで、ネットワークは自社の中核事業のコントロール能力を失ってしまったといえる。名物番組が競合するネットワークに移行すれば‐NFLがその最大の例であるが‐自社のブランドイメージは大きく損なわれる事になる。現在のところ規制緩和を活用したネットワークからの番組制作市場への浸透や影響力の増大化は、うまく行っているようには見えない。
 ネットワークが生き残るためには、スタジオが中核となり最も重要な伝送経路としてのネットワークを吸収し、さらにCATVのスーパーネットワークやMSO(マルチプルシステムオペレーター)を所有するメディアコングロマリット-端的な例はTime-Wanner-CNNやFOXグループであるが-という形態をとる以外は見出せない可能性が高いといえる。


4.多チャンネル化に対する広告放送局の対応

 さて前節で示されたアメリカの多チャンネル状況は、日本の今後の多チャンネル化を占う上でどのような意味を持つのだろうか。日米のテレビ産業の制度差・構造差そして時代的な背景の異なりは、その際にどのように影響を及ぼすのだろうか。今後の展開において考慮すべき点を簡単にまとめたのが以下である。

1)  本格的な多チャンネル化がデジタル時代に入った後で行われる

 まず、BSのデジタルや地上波のデジタル化は、アメリカにおいてCATVの浸透が示したのと同様の伝送コストの低下や視聴の分散化をもたらす可能性が高い。但しこれがアメリカと同じような影響力を持つのは、世帯普及率において50%から60%に達した時点であろう。
 NHKのBS放送は普及開始10年後に普及率30%を達成した。今後のBS、地上波の展開は、民放系新局の登場により最終的な普及率はそれに比べてはるかに高くなる可能性を秘めている。しかし一方、新しいデジタル受像機やデコーダの買い替えが必要になるため、デファクトスタンダードの設定や端末価格の低下など、さらなる産業としてのデジタル技術の成熟化を待つ必要であろう。その意味で日本の多チャンネル化は、アナログ時代に普及したアメリカの多チャンネル化に比べて、もう一段のハードルを抱えている事は事実である。但し逆にデジタル化へのインセンティブ自体は、それが多チャンネル化をもたらす意義を伴うために、アメリカに比べてより高い可能性もあろう。

2) CATV・地上デジタル放送よりも衛星(BS・CS)系メディアを主軸にした多チャンネル化が進む可能性が高い

 アメリカではCATVによって多チャンネル化がまず成し遂げられ、その後DBSの普及が始まった。must carry ruleを含め、多チャンネル化はメディアのローカリティに配慮する形で進んできたといえる。一方日本ではキー局、NHKという有力番組制作事業者が参画するBS(あるいはCS)が多チャンネル化の主軸となる可能性が高い。ローカル地上波放送にとって全国に到達する衛星放送の登場は、伝送機能に対する「バイパス」の登場と従来の独占状態がもたらす高収益の低減を意味する。また、番組制作を主として担当する在京キー局は、従来より数多い番組を、より売り手市場化する番組制作市場から調達するため、収入に比べた制作費比率は、かなり上昇すると見られる。
 アメリカと異なり、日本では1)キー局が番組制作・販売に自ら携わっているため、ローカル局はネットワーク以外からの番組調達が困難であり2)多チャンネル化は主としてローカル局の「存在意義」を軽減する方向に働き、3)さらにネットワークに対して交渉力を保有しうるようなローカルメディアコングロマリットが存在しないため、こうした変化へのイニシアティブは専らネットワーク側が握ることになるだろう。
 従来の全国一律のチャンネル免許政策によって、地域の自活的な経済力で賄えるテレビ企業数と実際の企業数には(プラスにもマイナスにも)乖離が生じている可能性があり、さらに地上デジタル放送の設備負担を視野に入れると、経済力に乏しい地域では地域内の企業統合(一県多波)あるいは地域をまたがる統合(多県一波)が進行する可能性がありうる。

3) 民放局は新局開始時より広告営業を行う可能性が高い

 現在、民放が有料放送を行うのか広告放送を行うのかまだ定まっていないが、仮に有料放送を行ったとしても、民放自体が広告産業のインサイダーであり集稿業務に熟達している事もあり、同時に広告収入をも想定する事業となる可能性が高いと見られる。アメリカの場合多チャンネル化は当初有料放送を前提に、広告産業のアウトサイダーの手により始まった。これがCATVの普及当初広告収入が著しく少なかった理由でと考えられる。その意味でより当初から広告、なかんずく地上波広告へのインパクトが生じる可能性が高い。

4) 巨大な公共有料放送事業(NHK)が既に存在している

 日本の有料放送事業者全てが直面している問題であるが、BS放送が事実上ペイテレビ市場を独占しており、またノンスクランブル放送を行っているため、新規参入が著しく困難であるという問題が存在している。仮に民放系のBS新局が有料放送を行った場合、この制度的な非対称性は大きくクローズアップされることになろう。もし広告放送が主体となれば現在の地上波での(NHKと民放との)補完関係はBS上でも続く可能性が高い。
 一方BSの多チャンネル化あるいは有料放送の開始により、これまでの少チャンネル状態、あるいは広告放送との組み合わせによって実施可能であった契約料制度が、契約率の低下によって存続が難しくなるリスクにNHKは直面することになる。事業体としてNHKを見た場合、恵沢世帯数の増加が現状(年70万契約増程度)であれば、NHKはスクランブル化のインセンティブに乏しいが、この契約増が減少した場合に初めて、スクランブル化によって未契約世帯の加入増を進めるインセンティブが高まると考えられる。その場合、スクランブル化とあわせ有料放送事業の民営化や、あるいは競争事業者(有料放送事業者)に対する番組・チャンネルのアクセイサビリティの導入[22]などの非対称政策が行われる可能性があろう。



[1] 例えば放送法は事業法的要素に欠け、多チャンネル化によって登場してきた新しい事業形態である「プラットフォーム事業」の定義や独占禁止法的な視点からの規制を同法内で行うには困難がある。また、放送免許の認可制や番組審議会制度等も、新しく登場した小規模放送局への実効的な意義を持ちにくい。
[2] さらにテレビの従来の公共性が侵食される例として、インターネットのニュースサイトとテレビのニュース番組との競争がある。NBCはニュース部門をMSNBCに集中させ、インターネットサイト事業と一体化を試みているが、このようにニュース報道機能がテレビ産業や新聞産業と分化、マルチメディア化することも将来的には起こりうるであろう。
[3] デジタル化によって長期的には映像・文字・音声などのマルチメディア化、および通信と事業の同一設備兼用化、電子通販やエレクトリックバンキングなどのサービスとメディアの融合化等が起こると予想されている。テレビ産業のデジタル化が真に消費者メリットを及ぼすのは、こうした他産業との融合化によるのかもしれない。
[4] CATV事業の場合、地域あたりの加入率が25-30%程度にならないとペイしにくいため、そもそもマスオーディエンスの獲得が期待できる既存地上波の(高画質による)受信が必要な状況で事業が開始されるインセンティブが生じるケースが多い。ところが国土が狭く、放送産業が古くから整備された国家では、電波設備への投資が継続的に行われており、CATV敷設の事業インセンティブに欠けることになる。一方、衛星放送事業は営業範囲が広大なうえ伝送コストが安く、加入率が数パーセントの状態でペイしうる。その場合、衛星では地上波の再放送は事業開始時に必ずしも必要ではない。日本やイギリスではこのような理由でCATV事業がバイパスされ、「地上波+衛星」という視聴形態が普及したと考えられる。
[5] BSとCSの制度的な枠組みは1977年のWARCによって定まったが、当時BSとCSは企業利用と家庭利用という2つの異なったマーケットを対象としていると見られ、異なった制度運用(国別の帯域幅制限-日本は8トランスポンダー-、国際間調整のスキームの違いなど)が行われた。しかしその後の技術進歩や放送における各国の技術革新の結果、受信アンテナサイズにおいて2つの制度の差異がなくなり、2市場は事実上合一化を行うことによって行政的な区分は基本的意義を失ったとえいえる。
[6] BSにおける委託放送事業者として(サイマル事業者を含む)、高画質放送としてNHK、WOWOW,民放5系列のBS新会社、ハイビジョン普及支援協会、NTSC放送としてスターチャンネルが認定された。(98年10月)
[7] 110度におけるCS放送の優先調整権は郵政省が保有している。
[8] 但し参加放送局が少なくある程度確定した視聴シェアの確保が期待できるBSプラットフォームと数多い選択肢の中のひとつとなり激しい競合にさらされるCSプラットフォームとでは、参加インセンティブが大きく異なることは事実であろう。
[9] NHKの場合、少チャンネル・寡占状態においては契約徴収率(契約者/視聴者)が確保されるが、多チャンネル状態では低下するため、「スクランブル化」を行うのが経営的には妥当であろう。しかし放送法の改正によってスクランブル放送が認可されると、現在のBS放送への早期導入やBS事業の経営分離化など、事業体に関わる議論が起きる可能性が高い。WOWOWの場合、現在のハリウッド・メジャーとの契約は衛星指定であり、CSにおけるウインドウは主として他事業者が保持していると見られる。
[10] E・H・チェンバレン「独占的競争の理論」至誠堂1976等
[11] 衛星放送の普及率が30%程度である日本では、また多チャンネル化の広告放送局に与える営業的な影響は顕在化していない。過去、NHK衛星放送の視聴率の最上位は、ワールドカップフランス日本代表選の5.5%であり、また衛星放送の平均視聴率は  %程度である。しかしNHK衛星放送の登場で民放のスポーツソフト獲得は制約を受け、WOWOWの登場によって映画ソフトの視聴率に変化が起こった可能性があるなど、民放局の制作・編成面では大きな影響を及ぼし始めていると言える。
[12] FCCによれば、CATV、衛星、ワイアレスケーブル契約世帯の月額平均契約料は、それぞれ28.83$、30.82$、21.29$
[13] ワーナーブラザーズを例にとると、番組制作(ネットワークに対する販売)、シンディケーション(自社による販売)、自らのネットワークでの放映という3種類の放送・営業機会に恵まれている。もっとも収益性の高い事業は番組制作であり、自社ネットワークはまだ赤字事業である。ネットワークでは番組費をかけず、新しいタレントやシリーズの発掘を行うなど研究開発・先行投資的な要素がある。
[14] 一般にチャンネルのブランドやターゲッティングには強いコーホート効果(馴染んだ世代がそのまま高年齢化する効果)が働く。その意味でFOXも画期的なネットワークア拡大に成功したおかげで次第にRuralの中年をターゲットとせざるを得なくなり、その空いたスペース(都市部・若年層・マルチカルチャー)にめがけてWBやUPNがセグメンテーションを行って浸透を図っている図式である。
[15] 日本では既に70年代後半に逆転が起きている。
[16] 視聴率当たりの単価-現在では959000世帯当たりの到達コストに相当し、CPMとほぼ同等である。
[17] 現在の30才台は、青年期よりCNNやMTV、FOXなどの新恣意メディアブランドになじみがある世代である。
[18] CNN-Time Warner、ABC-Disney-ESPN,NBC-MSNBC-CNBC等
[19]現在多くの広告代理店が導入を進めているoptimiserはこの裁定を進める効果を持つ。また大手広告主は勿論この裁定を歓迎しており、ネットワーク側も景気の一巡もあって広告単価の据え置きを迫られる状況が到来しつつある。
[20]UHFの場合最大でVHF局の二倍-全米の70%にまで直営局を広げることが可能。新興ネットワークであるPAXは、同手法により70%に到達する直営局支配を行う事ができた。
[21] 勿論地上波のデジタル化が起これば投資が必要になる。この点で地上デジタル放送におけるmust carry ruleがどのように継続するかは、CATV、ローカル局にとって重大な関心事である。
[22] 適正販売価格において、プラットフォーム事業者にチャンネルへの販売権を与え、番組放送事業者に対して番組への購入権を与えるなど独占禁止概念に基づく競争政策であり、NTTはOCN(オープンコンピュータネットワーク)の導入時に類似の二段階のアクセサビリティを導入した。

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