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参議院氏の死亡予告

2005/08/18
歴史と社会

 アベ・シェイエス「(第二院は)もし第一院に一致するならば、それは無用であり、一致しないなら害悪である」

今回の「郵政ガリレオ解散」は一般には行政改革を最終目的にしていると思われているようですが、私は小泉首相の優れた直感と戦略により、戦後最大の「政治改革」につながる可能性があるのではないかと考えています。
 今回、参議院議員のなかで小泉内閣の公約に違反してもかまわないと考える造反議員が大量に出現したのはなぜか。それは、彼らの任期が6年間で、小泉首相の選挙公約は4年間を任期とする衆議院議員の行動を縛るものであっても、それから先も続く参議院議員の任期中、その公約に必ずしもしばられなくてもいいはずだ、という思いがあったからではないでしょうか。
 つまり良識の府である参議院議員は、衆議院議員ほどには首相には隷属しなくてもいいはずだ、国民の審判を2004年6月に受けていた自分たちが、国民の意見を代表できるはずだ、と考えていたのだと思います。(ちなみに2004年の参議院選挙では、自民党49、民主党50と与野党の逆転が起きました。)
しかしその「たかのくくりかた」は、今回の選挙の結果次第では、現在の過度の権限をもつ参議院制度を葬送する過ちにつながる可能性が高いと思います。


 小泉政権が今度の衆議院議員で擁立する国際政治学者や、経済人、スター行政官、有名料理家などは、日本の国会理念上、本来は参議院議員に選ばれるべき人材なのではないでしょうか?彼らが衆議院に登場したということは、「参議院って何?」という国民の疑問をかき立てずにはおかないでしょう。戦後行われた第1回目の参議院選挙では、全国区選出の文化人や学者を中心とする無所属候補が108人も当選し、「緑風会」を結成しました。地元利益誘導と路線をことにする良識の府としての参議院制度の象徴とされていました。しかし1960年代から徐々にその理念は形骸化しはじめます。

 しかしその理念の低下に見合った権限の低下、器の大きさの相応化は実現しませんでした。現在の参議院は今回の郵政改革法案の審議をみても、衆議院とほぼ同等の機能・権限を持っています。衆議院が優位なのは首相の指名と予算などに限られます。したがって与党が円滑な国会運営を行ううえで、参議院での過半の支持が絶対に必要なことはいうまでもありません。
 その参議院が、それでは衆議院と異なった人材や機能を発揮しているのか。冒頭の疑問にもどりますが、基本的に「衆議院の(さらに)出来のわるいカーボンコピーであり、間違って複写してしまうことがあることがわかった」のが先日の票決の意味といえるでしょう。

 なぜそうしたことが起こったのか。それは参議院の理念と制度が変わり、政党化が進み、そこに選ばれるべき人材が選ばれず、良識の府どころか、国民にとっての「非常識の府」に成り果てしまったという現実があるからです。
 先ず大きいのは小選挙区の導入で自民党内の複数議員の公認が不可能になったため、多くの議員は世襲となり、そもそも国会議員の出身母体が国民の中で限られ同質化・互助会化がすすんだことがあります。これは特に自民党で顕著であり、優秀な官僚や学者、弁護士などの新しい選良たちは、自民党ではなく民主党を選んで出馬をするようになりました。

 それと歩みを同じくするように2001年から、参議院の比例選の方式が政党名のみの「拘束名簿方式」から個人名投票で当選者が決まる「非拘束名簿方式」へと変わったことも大きな要因です。これにより日本全体の知名度が低くても地元で票を集めて参議院に出馬することが可能になりました。これにより衆議院に選ばれなかった落選候補者が、参議院で復活するという「敗者復活戦」が可能になりました。つまりこの制度は救済措置として機能したのです。つまり参議院は所謂、既得権勢力(利益団体、監督官庁、および政治家を家業とする人たち)の温床とならざるをえず、衆議院がそれから先に一歩脱却したのに対して、その澱みを受け入れる構造となっていました。

 「より民意を代表していない質の低い議員が、より強い代表性を主張する。」

このねじれが衆議院と参議院の間で生じていたのです。

このねじれに拍車をかけたのが、自公の連立政権が長期に及んだことです。2004年の参議院選挙では公明党は11議席を獲得し非常に大きな影響力を同党にもたらしました。
 公明党との連立を行わなければ国会運営が難しくなるため、自公の国会対策議員が非常に大きな政治力を持ちます。
(自民党の青木幹雄参院議員会長が、これまでその実権を握ってきました。それ以前には、ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団疑獄で逮捕された村上正那前議員が「参院の天皇」と呼ばれ、その実権をもっていました。フォーサイト9月号(新潮社)によると、今回の廃案の過程で、村上氏と野中広務氏という青木ー小泉の結託により政治生命を絶たれた二人の国対型の引退政治家の怨念が、それぞれ中曽根文参院亀井派会長と、古賀誠元幹事長の二人への強烈な影響力として発揮されたようです)
 公明党はこの政治力を最大化するため、自民との間での選挙協力を行いました。端的にいえば衆議院では貸しをつくり、参議院でその貸しを返してもらう政略を取りました。これは同党の立場からは当然のことですが、参議院が実力以上の権力を振るうことを可能にし、政治を国民から遠ざけました。参議院議員達の思い違いも、この政略により進んでしまったと思います。
日本が二大政党制を実現する上で、非常に大きなマイナスをもたらしたように思います。

 つまり今回の選挙は、小泉の信任=参議院の不信任。ということだと思います。
 派閥間闘争ではなく衆議院V.S.参議院の政治闘争が行われようとしています。
 参議院は長らく自ら自己改革を行うポーズをとってきましたが、いったい誰が自分の権力を弱める行動を自らとるでしょうか。ましてや、彼らは政治家です。壊滅に近い打撃を受けなければきっとわからないのだと思います。

 世界的に見るとまず北欧を中心として、国連に所属している国家の過半数は一院制を採用しているという事実があります。グローバル化の進展により、一国の政治制度はより簡素化が求められ、よりグローバルな国家間システムへの関与が必要になってきます。
 アメリカ、イギリスなど両院制度を採用する憲政先進国は、日本と違い「州制」「連邦制」をとっています。旧ソ連も同様でした。そうした国では、連邦を構成している州間の利害を調整する場として、人口比率ではなく、各州・国が代表を送り出せる異質な政治システムとしての上院が必要になってきます。(日本ももし道州制度を採用するならば、新しい「参議院」が必要になることでしょう。)
 さらに戦後占領化でGHQがこの両院制度を日本に押し付けたのは、彼らも悩んでいるだろうこの複雑で厄介な制度を押し付ければ、日本が再び軍国主義化しようにも、独裁制度を確立しようにも、より大きな抵抗に直面するはずだ、という意地の悪い目論見もあったことでしょう。

 参議院の本格改革には、憲法改正を必要とするという意見も根強いようです。過去の選挙制度審議会で「第三者が学識経験者を候補に推薦し、そのなかから有権者が選ぶ」推薦制が提言されようとしましたが、憲法43条では「両議院は全国民を代表とする選挙された議員でこれを組織する」と規定しているため、これに抵触する恐れがあり、採用されなかったようです。政治改革にまさる行政改革はないのではないでしょうか。というよりもどんな立派な行政改革も、政治改革のうえでなければ正しく機能しないことでしょう。ということで、憲法改正を視野に入れた今後の大きな政治改革を期待したいと思います。

 政治は民心の微妙なバランスの上に成り立っています。今回民主党の参議院議員たちがおそらく大多数の本心とは違い反対票を投じたことは、自民党議員の公然たる造反劇の影に隠れて忘れられているようですが、国民はおそらくそれを(も)罰すると思います。そしてその後の2007年の参議院でバランスをとる、あるいはそのバランスの悪さによりさらに参議院が誰の目にも機能しないものに追い込まれる。そんな政治シナリオが見えてくるような気がします。

参考資料 
参議院ホームページ
参議院 - Wikipedia
自民党を壊した男小泉政権1500日の真実 読売新聞政治部

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Comment

1 - Name: ポリス : 2005/08/22 02:09

http://www.kounoike-web.com/
鴻池祥肇参院議員
この人なんか好例ですね。

2 - Name: bold : 2005/08/22 11:32

鴻池議員は先日朝日新聞で、「反小泉」の会を結成、「照準は(郵政法案)再否決」「新党連携も視野」とおっしゃっていました。
今、HPをみると、
「しかし、朝日の記事は間違いばかりです。書かれているように「反小泉」の会ではありません。「照準は(郵政法案)再否決」でもありません。「新党連携も視野」とんでもないことです。特に衆院とは一線を画します。参院は衆院に影響されてはならないと考えます。また、今後は党議拘束の垣根も低くして参議院議員として良識ある行動を為さなければならないと考えます。」
と姿勢をマイルドに変えています。朝日が嘘つきか、鴻池さんが言い訳しているのか?よほど後援会からか、自民党首脳部からのプレッシャーはあったはずと思います。

鴻池議員は「構造改革特区相」のときに、病院の株式化をめぐって医師会や厚生省と猛烈なバトルをしたことで知られています。そのときの勇敢で激烈なやり取りは、語り草になっているほどです。
津島元厚相「株式会社化は保健医療をつぶす。あなたはアメリカの医療を知っているか?」
鴻池大臣「一ヶ所、二ヶ所で自由医療をやって何が悪いのか・日本も欧米なみになる」
津島元厚相「その程度か」
鴻池大臣「馬鹿にすんな。もういっぺん言ってみろ!」
(プレジデント2003年4月号)

それがなぜ今回郵政民営化に限って大反対なのか?????
「民営化すれば僻地や離島へのはがき代や手紙、切手代は高くなりますよ。」と鴻池さんはおっしゃっています。(???)

私が想定する理由は以下です。
1)医師会の組織票がもはや考えられない以上、郵政の組織票を期待せざるをえない
2)財務省、国税が関与しない貯蓄機関を温存したい?
3)反対派のドン(村上氏、野中氏など)からいいふくめられた

3 - Name: 岡田元浩 : 2007/02/03 19:55

2月2日放映の日テレの太田総理のマニフェスト「政党廃止論」の投票結果は「賛成79%」の圧勝だった。
でもこのマニフェストには「スクラップ」だけで「ビルド」がない。それでは「何でも反対党」や「入口けで出口を示せないワイドショー」と同じでは有りませんか。
どんなに問題点があっても、より優れた対策案が無ければ、現状がベストです。
つまり「対案との比較で議論する」と云うORの基本を無視している。
東国原知事の圧勝に続き、是だけの賛成票を得た以上、この番組でも、本物の国会でも肝心の「原因の分析」と「対案の議論」をして欲しい。
既成政党は来る参院選に夢中だが、79%は「参議院無用論」にも繋がる話です。
それに付いて5年前から訴えている私説、私書の「技系主導政治」はヤフーやグーグルではトップヒットし、反論が無く、ブログ上では「素人にも判り易い」とか「目から鱗」とか絶賛を浴びているのですから、これに付いて賛否を問えば上記79%の人の大半は賛成してくれるはずでしょう。
つまり今日最大の問題は「格差」でその原因はハイテク革命の結果、コンピューターやロボットに中産階級の仕事が根こそぎ奪われたのが原因で、負け組みは勝ち組みに負けたのでは有りません。ロボットに負けたのです。
ですから「再チャレンジ」とはロボットを支配する技術を身に付けるしか無いのです。それを箱物行政や赤字国債、補助金で隠して来た文系政独裁治が悪いので、左とか中道とか文系のコップの中の対立軸が虚構なのです。
 民主党藤末先生のHPに依れば資源小国日本を支える産業の輸出は80%でその労働者は14%だそうです。9%と云う説もあり、汗を流している主役はロボットですから当然でしょう。つまり勝ち組みの代表は今の様な議会では常に絶対少数なのです。
第一次産業革命は「動力革命」で、「汗を流すのが美徳」の日本でも、さすが戦後は自転車でリヤカーを引いては飯が食えない。
ハイテク革命後の今日「読み書きソロバン」はロボットが超人的能力が有るので「ワーキング・プアー」が待っている。
つまり今国民に示すべき「対立軸」「選択肢」は早大大槻教授の本「文科系が国を滅ぼす」の中で云う「みにくい文科系エリート党」対私書に云う「ハイテク革命党」なのです。

4 - Name: 上田たけし : 2007/06/28 22:05

参議院何の用ぞ、衆議院に一致すれば不要たらん。
            一致せざれば有害たらん。

大阪から脱政党政治の狼煙を上げます。


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