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中村修二教授の不本意な和解

2005/01/18
ビジネス

 青色ダイオードを発明した中村修二米サンタバーバラ大学教授の日亜化学との和解金が8.4億円(金利を含む)となったことは周知のとおり。僕が疑問に思ったのは彼が「最高裁判所に行っても勝てないので」と発言した和解の理由です。彼は不可能と思えた青色ダイオードを発明した男ですから、一見不可能と思える裁判にもチャレンジすべきでは、と思いました。でもその裁判を担当した東京永和法律事務所の見解を読むにいたって、いくつかの背景が見えてきました。

http:// www.tokyoeiwa.com/ aoiro/ lwyrs_cmnt170111.htm

そもそもこの弁護士団は、中村教授から「きわめて不本意」という発言をされた時点で何らかの釈明をする必要性を感じていたんですね。つまり弁護士団にとって「不本意発言」は、きわめて不本意な意見だったということです。
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1.当弁護団は、「①和解に応じなかった場合に予想される判決内容、②上告審で高裁判決が破棄される可能性、③破棄された場合に差戻審で認定される可能性のある金額、④上告審で一審判決の金額が支持される可能性、⑤上告審及び差戻審のために中村教授が投入しなければならない時間、⑥上告審及び差戻審に要する年月、⑦二次訴訟を提訴する現実的可能性、⑧二次訴訟のために中村教授が投入しなければならない時間、⑨二次訴訟に要する年月、⑩和解に応じた場合の中村裁判の目的の達成度(詳細は下記2,3参照)など、本件に関する全ての事情を考慮して、依頼者の最大利益は、和解勧告を受諾することと考える」と依頼者に助言し、中村教授はその助言に従い、和解勧告を受諾することとしました。
理由の詳細については、弁護士の依頼者に負っている守秘義務により開示することを差し控えさせていただきます。
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 と書いてありますが、ほとんど理由が書いてあるではないではないですか(笑)和解は合理的な選択だったと思います。で。僕は次のことを思いました。

1)中村教授が貧乏だったらもっとお金が取れたのかもしれないが・・

 彼は有名人で今や収入も多く失うものも多いのだと思います。彼の大学での評価は知りませんがアメリカの大学(というか学生)はきわめてシビアな評価をいたします。彼が英語がうまいかどうかは寡聞にして知りませんが、ここで裁判にかまけて授業をサボっていると、口さがない学生からの評価は地に堕ちると思われます。そして日亜は戦術上もちろん、その点を突いて大学に働きかけた可能性があります。

 金持ちけんかせず、といいますがそのとおりです、日亜も中村教授もどちらも、ということですが・・・・もし中村教授が無一文なら万が一裁判で勝って二億円アップという出目に賭けることができたわけですが、今の立場ならそのリスクを犯すのは誰が見ても、大損であると思います。これも想像ですが、おそらくこの弁護士事務所は知名度アップのため、ただ同然でこの弁護を請け負っていたのではないでしょうか。上記見解には「もうこれ以上ただ同然ではできないよ」という縁切りのニュアンスも感じられます。

2)一人の成功の背景には数百人の成功しなかった開発者がいる

 今回の地裁の200億円の判定は裁判所の常識のなさをさらけ出しました。日亜は個人的にはきらいですが、企業全般を少しだけ弁護すると、企業は発明ができなかった場合の全リスク(収益ゼロ、損失)をうけ入れます。一方個人はそのリスクはありません。せいぜい出世が遅いぐらいのことで損はしませんし、その間収入ゼロにもなりません。だから、逆に成功して儲かった場合の個人の利益シェアも、ある程度マイルドにする必要があるのです。リスク負担なしにプロフィットシェアを平等に行うのは間尺にあいません。

 企業ではさまざまな研究開発を行いますが、もし困難な発明に万が一成功した個人が巨万を独占する、ということになれば、地道でチームワークの必要な研究開発をする動機が研究者の間には失われてしまいます。研究者は全員ギャンブラーを目指すようになるでしょう。研究と商品開発は継続する関係であり、また異なった才能の分業と相互教育によるものです。中村教授がそれを否定するとしたら、彼と彼のかつての部下、彼の現在の教え子との関係はどのようになってしまっているのでしょうか・・・

3)個人と会社の関係の成熟

 アメリカでは裁判が多く判決も多く、また法経済学という分野が発達して、個人と企業のリスクテイク、プロフィットシェアの考え方も成熟しています。日亜からはわずか二万円の発明報奨金、一方中村さんからはなんと200億円の対価というような双方の立場が100万倍もの差があったのが、今回の和解により数億円という風に決まってきたことは僕は、発明報奨金の額を決める上でも、それなりの成功だし成熟だと思います。

 人間が一生心配なく裕福に暮らすためには10億円あれば十分です。リスク負担なしにそれ以上の利益を発明対価として享受するのはどうなのか。会社組織を作り残したならば、その後の雇用や研究開発の継続が可能となり、ようするに未来のために役に立つ仕事になるわけでし、その対価も大きくなりますが、個人はあくまで個人、人生の収支で完結するものです。上記弁護士の見解 は実は損得計算にみえて、この個人と会社組織の価値観を代弁するものでもあるのですね。僕は理科系出身ですが、ビジネスにも携わっているものとしてそう思いますし、今回の判決はほぼ妥当だと思います。

 しかし中村教授。発明家に多い彼の頑固さ、執着質、偏執癖はそのまま彼が成功した要因だったと思います。また日亜とのここまでの確執は、彼を守り立てた日亜の先代との信頼関係と、その後継者(現経営者)との嫉妬・ライバル関係のどろどろとした物語だと思われます。
 制度の成熟はそれとして、一方この和解で今後彼がマスコミに登場しなくなるというのはちょっと寂しいところもありますね・・・アメリカの大学から帰ってきて強烈なコメンテーターとしてテレビに登場してほしいと思っているのは、僕だけでしょうか。

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